社会と現実

気がつけば、私はすっかり大人のベテランになっていて、社会と現実を知ってしまった。

頑張っても報われないこと。
思いやっても受け止められないこと。
善意が利用されること。
美学が打ち砕かれること。

それなのに、「頑張れ」と子どもの背中を押す。
柔らかく澄んだ心を育てられるように、美しいものを見せようとする。
彼が育むその美しい世界が、いつかあっけなく壊されてしまうかもしれないことを知っているのに。

狡さが賢さとして働く社会では、正直者が損をする。
狡さを少し教えた方が、傷付かずにうまく生きていけるのかもしれない。
それでも私は、現実よりも美しい世界を見せ続けている。
そんな育児は、果たして「子を守る親」として正しいのだろうか。

大きな怪我や病気がなく、天寿を全うするまで穏やかに生きていけるように育てたい。
命や心が脅かされることから自分を守れるように教えたい。
そのために何を教えれば良いのか。
今日も私は問答を繰り返しながら、彼の美しい世界にお邪魔する。
あわよくばこの世界を守れないものか。
いやいや。欲張りません。私の宝物が長く健やかに暮らしていけますように。